パリ・テイスティング 1976
2007.8.22
今回は1976年に起こった、その当時のワイン業界に激震をもたらした、ある伝説的な出来事について書こうと思います。
この事件をきっかけに、当時は誰も見向きもしなかったカリフォルニアワインが世界的な脚光を浴びる事となります。
1976年、パリで小さなワインショップとワインスクールを経営していたイギリス人のスティーヴン・スパリュアが、アメリカ合衆国の独立200周年の記念にあるイベントを思いつきます。 それは、当時既に世界最高峰といわれていたフランスワインと無名のカリフォルニアワインをブラインドでテイスティングする、というものでした。
スパリュアにとってのその企画は、自分の経営するワインショップとワインスクールの宣伝が最大の目的でしたが、結果としてほとんどのマスコミにフラれ、唯一当時のタイム誌パリ支局の特派員がしぶしぶ取材に訪れるという有り様でした。
当時の人達にしてみれば、その企画は、結果の判り切ったあまりに魅力の無いイベントとして映ったようです。
事実、当のスパリュア自身も後に 「いくらカリフォルニアワインの質が向上しているといっても、フランスの最高峰と比較されたらその質の違いは明白であろうと思っていた」 と述べています。
ところがスパリュアは審査員の確保には成功しています。 フランスAOC委員会委員長、DRC共同所有・経営者、三ツ星レストランオーナー、三ツ星レストランオーナーシェフ、三ツ星レストランシェフソムリエ、フランス国内で非常に権威のある業界誌の編集長など、そうそうたる9名の専門家が参加しました。
1976年5月24日、パリのインターコンチネンタルホテル。
白ワインは、ブルゴーニュの当時から最高と謳われていた銘柄4品とカリフォルニアのシャルドネ6品。 赤ワインはボルドー、メドック格付け1級もしくは2級の銘柄が4品とカリフォルニアのカベルネ・ソーヴィニョン6品。 赤白それぞれ10種類ずつのブラインドテイスティングが行われました。
結果は、白ワインの1位はカリフォルニアのシャトー・モンテリーナで、上位4銘柄中3銘柄をカリフォルニアが占めました。 赤ワインは上位4銘柄中3銘柄をフランスワインが占めたのですが、1位はやはりカリフォルニアのスタッグス・リープ・ワインセラーズでした。
しかも、この赤ワインの結果に関しては不純な力が作用したといえます。 というのは当初、テイスティングは白赤続けて行い最後に結果を発表する予定だったのが、白から赤に移る為の準備に時間を食いスケジュールが大幅に遅れたスパリュアは赤ワインのテイスティングの前に白ワインの結果を発表するというミスを犯したのです。
審査員たちは恐ろしく狼狽していたといいます。 それはそうでしょう、伝統とステイタスを誇りにしていたフランスワインより、彼らが「安物」と蔑んでいたカリフォルニアワインが高得点を取ったわけですから。しかもそれを自分たち自身で評価した訳です。
赤ワインのテイスティングでの審査員たちの焦点は、品質の高さを見極めることではなく、どれがフランスワインでどれがカリフォルニアワインなのかを見極めてフランスワインに高得点をつけることにシフトしたのは容易に推測できます。
それでも、結果1位はカリフォルニアワインでした・・・・・・・・・。
さてこの事件、歴史的にどんな意味があるのかということですが。 まず、カリフォルニアワイン業界にしてみれば、まさに歴史が動いた分岐点であったといえます。 このニュースは瞬く間に世界中を駆け巡り、カリフォルニアワイン人気に火をつけました。
カリフォルニアワインの巨人ロバート・G・モンダヴィは当時を振り返りこう述べています。 「試飲会の勝利は、ナパ・ヴァレーの勝利であり、カリフォルニアの勝利であり、アメリカワイン全体の勝利なのだ。今まで続けてきたこと、すなわち、品質の追求という方針に自信が持てた瞬間でもあった」
フランスワイン業界にとってのこの事件は、歴史と伝統にあぐらをかいてきた生産者たちの目を覚ます結果となりました。 1980年代のフランスは国外の技術や考え方を受け入れるようになり、ワインの味わいも「若いうちから飲みやすく、果実味豊かで凝縮感があり、アルコールが高めでパワフル」な、いわゆる国際標準的な造りに向かう生産者が増えました。
その他世界中の生産者達に対してもこの事件は、フランス以外でも優れたワインを造ることは可能であることを証明し、鼓舞する結果となりました。
ところで、一番災難であったのは張本人のスティーヴン・スパリュアでした。 このパリでの試飲会の後、自身のワインショップの買い付けの為におとずれたボルドーやブルゴーニュで散々な扱いを受けたといいます。
現在ではフランスワイン界の重鎮たちの怒りもさすがに収まったようで、1999年にはボルドーワイン関連の著述でルイ・マリニエ賞という賞を受賞し、いまだにワインジャーナリストとして活躍しているとのことです。
さて、今回のこの話にご興味を持たれた方は、冒頭で述べた、テイスティングに唯一取材に訪れた当時のタイム誌パリ支局の特派員、ジョージ・M・テイバー著 「パリスの審判 / カリフォルニア・ワイン vs フランス・ワイン」 葉山考太郎 訳 日経BP社 2,400円 をお勧めします。
実際にテイスティングに出品されたワイナリーの当時の話や、時代背景などが詳述されてます。
又、ハリウッドで映画化の話もあるとのことなので楽しみです。
最後に、このパリ試飲会に関しては実は興味深い後日談がありますので、その話は又次回ということで・・・・・。
次回はもう少し短くまとめられるか・・・・・?
それでは、又。
|